2つの青い光が近付いてくる。 ブリッジから目視出来る2つの光。あの光が並んで宇宙を駆けるのを見るのはいつぶりのことだろう。 「こちらティエリア・アーデ、エクシアと共に着艦作業に移る」 ティエリアからの入電を受け、ブリッジではすぐに着艦指示が出された。 イアン・ヴァスティは端末に転送されたセラヴィーとエクシアの拡大映像を確認する。 ティエリアの報告通り、エクシアの損傷は激しいようだ。それでもイアンの頬にはうすく笑みが浮かんだ。 (帰ってきたな、エクシア、刹那) 仲間の無事に安堵しつつも、整備士としてエクシアの帰還に気持ちが昂る。 ツインドライブシステムの稼働に問題を抱えている今、エクシアの帰還は喜ばしいものだった。 (それにしても、この様子じゃハンガーへの固定は難しいな) ブリッジを立ったイアンに計ったようなタイミングでティエリアの声が掛った。 ガンダムの着艦誘導システムに従い、照射されたビーコンを確認した。 「ティエリア、誘導システムのガイドは確認したが、エクシアの座標照準機能がダウンしている。機内でのエクシアの格納作業について指示を仰いでくれ」 ビーコンによって示された宇宙に浮かぶ滑走路、常なら着艦誘導システムに従い、オート運転に切り替えることが出来る。 『着艦に問題は』 「問題ない。座標は確認できる」 『了解した。「…イアン・ヴァスティ、エクシアの損傷により誘導システムの認識がされない。着艦は問題はない、機内での指示を直接刹那に。通信コードは…」』 エクシアの機体損傷の度合からハンガーへの固定は困難だった為、重力区画内の、作業区画へ直接機体を下ろすことになった。 イアンの指示通りの場所に機体を横たえ、GNドライブの稼働を止めたエクシアのコックピットが開く。 そこに黒いパイロットスーツが姿を現す。 手を挙げたイアンに気づき、刹那はエクシアの機体から飛び降りた。 「久しぶりだな刹那。」 ヘルメットを取った刹那と目が合う。幼かった頬は削がれ、目の鋭さはそのままに大人びた顔が現れる。 「なんだ、ずいぶん大人っぽくなったもんだな!」 ニっと笑った顔にも刹那の表情は変わらない。 「イアン・ヴァスティ、あんたはあまり変わらないな」 相変わらずのぶっきらぼうな様子にイアンは笑みを深める。 「撤回する。そういうとこは変わってない。でも背は伸びたなぁ」 いつの間にか、目の前まで来た刹那を少し見上げる状態になっていた。 イアンは遠慮なく刹那の頭を掴むとその髪をぐしゃぐしゃとかき回した。 「本当に変わってないな」 刹那は少し眉を顰め、そっと身を引いてその手から逃れた。 (変わった。4年前のお前なら、手を振り払っていたよ) わずかなやりとりだが、彼の変化が垣間見える。 (この様子なら大丈夫かもしれない) イアンは意を決した。 刹那に言わなくてはいけないことがあった。どうせ言うなら早い方がいい。 「刹那…早速だがエクシアのことでお前に話がある」 エクシアという言葉に刹那の表情がわずかに硬くなる。 「エクシアの太陽炉を新型に移すぞ」 刹那の表情は変わらなかった。胸の内は分からない。 「あぁ、頼む」 少し間があったが、刹那は素直にそれにうなずいた。イアンの方がその様子に少し驚いた。 「エクシアはもう戦闘に参加しないぞ」 「分かっている」 あまりに冷静な刹那の様子にイアンは肩透かしを食らった気分だ。 「…エクシア馬鹿のお前はもっと悲しむかと思ったんだが」 イアンの言葉に今度ははっきりと刹那の表情が曇り、俯く。 「俺はこれまで、世界の動きを見てきた。戦争がなくなっていないことも、そこで使われるモビルスーツの技術が向上しているのも。エクシアは俺にとって無二の存在だ。それでも、俺は今のエクシアの力を知っている」 ふいに顔が上がり、睨みつけるような視線がぶつかってくる。 こちらが怯みそうになるくらいの視線だ。 「俺はまだ戦う。…俺がその新型に乗っても構わないか」 了承を得る言葉だが、それは決意している目だ。 刹那は相変わらずのガンダム馬鹿のまま、イアンが思っていた以上に成長しているようだ。 嬉しいような気持に胸が熱くなり、イアンは刹那の肩を大げさに叩いた。 「いいに決まっとるだろ!00はエクシアの後継機だぞ」 「ダブルオー…」 目を丸くする刹那にイアンは先ほどの笑みを取り戻しニヤリとほほ笑む。 「ちゃんと説明してやるから、先に部屋で着替えてこい」 刹那を送り出したイアンは、傍らのエクシアに歩み寄った。 4年前の戦いの時にもかなりの損傷をしたであろうエクシア、今また傷ついた姿をしているが、残った機体にイアンの知らない修理の跡を見つけた。 ガンダムマイスターは操縦訓練以外にも幅広い活動を想定し、訓練を受けている。機体に関する知識も少なからず理解し、人手の少ないソレスタルビーイングでは、整備作業を手伝うこともある。 それでも、たった一人エクシアの修理を続けていたであろう刹那の姿を思い浮かべると自然と笑みが浮かぶ。 マイスター一のガンダム馬鹿に愛された機体をイアンはそっと撫でた。 |