今年こそはと送ったメールには、今年は実家に帰省する休みがとれたのなら良い休暇を、と短い返信がきた。 故郷フランスで迎えるニューイヤーを地元のツレと。それも決して悪くはないけれど、今年こそはあなたと!一緒に過ごしてみたかった。 西暦2308年12月31日 「パトリック!いつまで端末にかじりついてる」 「ばか!勝手に触るな」 眺めていた携帯端末を旧友の一人に取られ慌てる。 「誰だこの美人、まさか恋人か?」 「うるさい見るな!」 「おいおい、だったらこんな日に俺たちとこんなとこいないだろ」 「ていうかAEUのマネキン大佐じゃねぇか。お前らこの人知らないのか?」 「だから勝手に見るなっつってんだろ!」 友人というものは実に遠慮がない。 その上、国防大学時代の同期ともなれば、大雑把で何事も面白がるスタンスが基本、そしてパワーには自信のある俺でも、奪われた端末を取り戻すのはなかなかに難しい! 同期の仲間が元気というのは喜ばしいことだが、こいつらの元気さが今この瞬間とてつもなく恨めしい。 「マネキン大佐!」 「軍のデータベースでしか見たことないなぁ」 「見なくていい、思い出さなくていい!」 ようやく取り戻した端末を閉じ、コートのポケットにしまう。 「何騒いでんだお前ら、もうカウントダウン始まるぞ?」 コインで負けた2人が戻ってきた。頼んだホットワインを受け取る。 「…おい、ジンジャーって言わなかったか?」 シナモンの香りに顔をしかめると、そいつは明後日の方向に視線を泳がす。 「んな小さいこと気にするな」 「そうだ、女性は好きな人多いし、大佐を思って、な!」 「大佐はそもそもホットワインは好きじゃねえ!」 思いの外大きくなった俺の声に、知らない女性まで振り向いた。 俺は悪くない!けど、ああまた大佐にガキ扱いされる。 「おい、パトリックが本気だぞ」 「ああ、でもあのマネキン大佐について俺にアドバイス出来ることなんてないぜ」 「俺もだ」 「聞こえてっぞ、おい」 こそこそと話し出したやつらに今度は少し音量をおさえて、しかし睨みはきかせて言う。 今にも笑い出しそうなやつらにガツンと言わないと、と思った矢先、周りからカウントダウンの声があがった。 広場にいるすべての人が空を仰ぐ。 0カウントと同時にあがった花火と人々の歓声。 「ハッピーニューイヤー!&ハッピーバースデー!」 一拍遅れて、俺に降り注いだ声と、熱いハグ。 「うっせー!サンキューお前ら!」 俺もバカみたいに仲間の肩を抱き、誰彼構わず頬にキスを送った、本当にバカで愛すべき仲間達だ。 叫んでカラカラの喉に嫌いなシナモン風味のホットワインを流し込む。 ワインは冷め始めていたけど頬が熱い。 コートのポケットに手を突っ込むと、中で反応する端末に気付いた。ニューイヤーのメールだろう。 ディスプレイに表示された名前、メールではないそれに慌てて繋ぐ。 「大佐」 『おい、ずいぶん騒がしいな』 「今、フランスです」 『ああ、休みは取れたか、良かったな』 端末に釘付けになる俺に、周りの声が遠くなる。 チラと目を向けると仲間はニヤニヤと黙ってこっちを見ている。 「大佐、お顔が見えません」 かしこまった話し方がおかしいのだろう、誰かが吹いた。 笑えばいい、それより音声のみの通信がもどかしい。 『ああ、少し呑んでいて、今きっと顔が赤い』 ふふと聞こえた笑い声のささやかさに、頬がさらに熱くなる。 「大佐が酔うまで呑むなんて珍しいですね」 俺は大佐が酔っているところなんて見たことがない。 『ああ、従兄弟がこの休みに結婚してな、今年は家族の大半が集まったんだ』 帰省すると言わなかったか?という声は俺の誘いを断ったことを微塵も気にしていない。 そんな理由があったなんて知らなかった! 『そういえば、部下に言われて休暇前にお前のデータベースを見たんだがな』 「え!は、はいっ」 突然の話の切り替えに驚く。 大佐は何を見たんだろう、知らず握りしめた手のひらが熱い。 『パトリック・コーラサワー、お前が今日で30歳というのは何の冗談だろう、なあ?』 「え」 驚いて、言葉が続かない。 一瞬の間の後、とても楽しそうな笑い声がした。 『なんだ惚けた顔をして、おかしな奴だ』 ああ、俺はこっちのカメラを切っていなかったんだ、さっきから変な顔をしていたのに。 「大佐、俺本当に今日誕生日なんです」 『ああ知っている。誕生日おめでとう。今年もよろしくな』 すまん母が呼んでいる、また基地で会おう、と大佐の通信は切れた。 俺は端末を握りしめたまま動けない。 「パトリック、誕生日おめでとう!」 「おう」 「いい誕生日になったじゃねえか」 「 」 嬉しくて声が出ないなんて初めてだ、仕方ないから俺はまたバカみたいに仲間達の肩を抱きしめた。 Happy New Year!! & Happy Birth Day!! To. Patrick Colasour |