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ロックオン・ストラトス、あなたの責務を背負った名。 収束していたレーザー光線の先端をカメラが捉えた。モニターの中、発生元は遠く未だ見えない。 太陽光発電を利用した巨大なレーザー兵器。 そこから放たれたレーザー光線、恐ろしいほどの熱量を持ったそれに仲間達は焼かれたのだろうか。ライルの脳裏には悪い考えばかりが浮かんでくる。 スメラギからミッションプランが提示された。 使える手段を全て行使して尚、失敗など許されない１発勝負のプラン。連携なんて言葉におさまるものではない、ここでは一つの性能、一人の能力全てに途轍もない重さの責任が乗っていて、何が欠けることも出来ない。 ライルの腕に抱えられた独立ＡＩを持つ汎用マシン、このハロすらも愛らしい外見とは裏腹にこの組織に欠かせない戦力の一つだ。 重圧に負けそうになる気持ちはある。 （息が詰まる、でも…） 前を歩く紫色のパイロットスーツ、ティエリアの真っ直ぐに伸びた背中にも、自分と同じ、いやそれ以上の重圧がかかっているだろうに、足取りは常と変わらない。 その後ろ姿を目に焼き付け、ライルは自らを鼓舞する。 第３デッキへの移動を終え、外部カメラの映像を呼び出す。 メインモニターに映し出されたのは、散り散りになり漂う青い機体の断片。オービタルリングに隠れた仲間の艦隊、数はあんなに少なかっただろうか。加速し通り過ぎていくものの中で、一瞬捉えたそれに気がつかないわけではなかったけれど、ライルは目をつぶった。 今大事なことは目の前の任務を完遂することだと、振り返るのは今ではないと湧き上がる熱をこらえて。 あの悪魔のような兵器を落とさなくてはいけない、１秒でも早く。 震える手を止められない。 剥ぐように取ったヘルメット、取り落とし足の間に転がる。 戦域を離脱し、既に武装解除と集合の連絡が入っていた。追いやるようにハロが呼ぶ。 しかしライルは震える自らの手を止められない。 夢中だった。目標は遠い遠い一点。狙い定めた右目は瞬きすら忘れた。攻撃の合図、コックピットに響いた名前、それはお前の名ではないと言外に語る視線を幾度となく感じながらも、いつの間にか自分を定義する一つの単語になっていたもの。 その名前に寄せられる大きすぎる期待。 （でも、そうじゃない） 自分は、もしかすると今日初めて認められたのではないか、ロックオン・ストラトスの名を背負うのに見合った男と。 でも自分はそれを正面から受け止められるほど強くはない。 台座の上でハロが呼ぶ。 早くコックピットを降りなくてはいけないと分かっている。ライルは押さえ込むように両の手を硬くにぎりしめる。 メインモニターの点灯、ティエリアからの通信を告げる。 不意のことに、いつもの顔を作ろうとしてライルは失敗した。しかしモニターには通信を伝える文字が光るばかりだ。 『…まだそこにいるのか』 抑揚のない声は問いかけではなく確認だった。 震えが唇に移らないように、一度強く奥歯を噛む。 「ああ、集合だよな？すぐ降りるよ」 返事はなく、二人は沈黙する。 探るように見つめたモニターに光る『ＧＮ−００８』その意味にライルは気が付く。ティエリアは個人の情報端末ではなくセラヴィガンダムからの通信をしている。 ティエリアも、まだセラヴィから降りていない。 「どうかしたか」 訝しく思い、ライルから声を掛けた。 『…どうもしない。君は何故降りてこない。待たせているぞ』 「いや、降りるよ」 会話が噛み合わない。 声に感情が乗っていない。声のみの通信ではライルにはティエリアが何を考えているのか察することは出来ない。 （降りよう） 不意に入った通信に気が紛れたのか、まだ指先が冷たいような気がしたが、手の震えは止まっている。 落ちたヘルメットを拾う為、屈んだ頭上に声が落ちる。 『驚いている』 「何だ？」 『驚いている…、僕は名前を呼んだことを』 名前とはもちろん『ロックオン・ストラトス』のことだろう。 ティエリアがそれを気にしていると思わず、ライルは言葉に詰まる。 『君と彼は違うと分かっている、しかし呼んでいたんだ』 単にコードネームという意味ではない。 ティエリアはライルをロックオンと認識し呼んだのか、彼の中の『ロックオン』を呼んだのか、他の何か理由からか真意は分からない。 衝動的に口をついた言葉に、ティエリア自身困惑しているのだろう。そしてじっとセラヴィの中で、整理のつかないものを抱え動けないでいたのかもしれない。 （あんたにもそんなことがあるのかな） 「俺も驚いたぜ」 緊張に昂った頭に、あの時降り注いだ声は自分へのエールだった。 それでも、やがて熱が冷めるていくにつれ、あれはエールなどではなく、自分に重ねられた『ロックオン・ストラトス』へ向けられた期待の表れではないかと思えてきた。 穿ち過ぎだと、一人苦笑いでやり過ごそうとした気持ちとは別に、ライルの手は震え始めた。 「あんたは俺を認めたのかな」 『分からない』 「ああ」 『分からないんだ』 「俺もだ」 何を認められたと言いたいのか、何かに認められたいと思う気持ち自体あるのか、ライルにも分からない。 抱える問題も想いも違うけれど、思わぬ儚さを見、僅かに気持ちが凪いだ。 ティエリアにもライルの同意の意味は分からなかっただろう、それでも落着きを取り戻した声は届いた。 『もう一度、呼んでもいいか』 「ああ」 （俺は怖い、） どれほど仲間を失ったのか知ることが、これ以上大切なものが増えていくことが、呼ばれる名の持つ責務の重さが、いつの間にロックオン・ストラトスを追う自分が。 しかしそれが自分をこれ以上なく強くするのなら、胸を締め付ける痛みと共に全てを受け入れよう。 |