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 地球連邦正規軍による、軌道エレベーター占拠という前代未聞のクーデター勃発から、もう一つのレーザー兵器存在の判明。
 それによる軌道エレベーターへの攻撃の可能性、予測される被害のあまりの大きさ、優秀過ぎるソレスタル・ビーイングの戦術予報士、スメラギの予報が外れる可能性は極めて低い。
 一瞬で一つの国を消せるほどの威力をもつ巨大なレーザー兵器の射程に、6万人の命と世界一大きい建造物が入っている。
 ダブルオーライザー、刹那との合流を果たし一人と一機の介抱と並行し、クルーはすぐさまアロウズの次なる動きに備え動き始めた。

 脱出を始めたカタロンモビルスーツ部隊に、正規軍の容赦ない攻撃が始まる。
 圧倒的な勢力差に対抗する術もなく、数を減らしていく様にロックオンの怒りは限界に達したのだろう。アレルヤの制止も届かない。
(こんなところで争っている場合じゃない)
 それでも、目の前で繰り広げられる一方的な攻撃にアレルヤの中にもこみ上げる熱いものがある。
 ガンダム3機はその混戦のただ中に飛び込んでいった。

 不意に動きを止めた数機のモビルスーツ。
『何だ』
 怪訝そうなロックオンの声。動きを止めたケルディム。違和感にアレルヤもつられるように空を見上げる。こちらに向かってくる小さな欠片。
「まさか」
 アレルヤの声が上擦る。
 遙か上空から降り注ぐ、小さな、それでも実際は一辺が数メートルにもなるピラー片。
 雨粒のように数え切れないほど無数に、引力にひかれるままに加速しながら落ちてくる。
『軌道エレベーターが崩壊していく!』
 ティエリアの叫び。
 起きてはいけないことが目の前で起きている。
 怒りよりも悲しみよりも感情が追い付かない、アレルヤのそしてロックオンの驚きを代弁するものだった。

 スメラギからのピラー破砕要請の通信に、ガンダムは即座に動いた。
 トランザムシステムは使えない。次々と落ちてくるピラーを撃つのにチャージをしている時間はない。
 使える火力の全てを駆使し、ひたすらに落とし続ける。
 それでも、間に合わない程の数。
 アリオスの脇を抜けたそれに、アレルヤは身を翻す。
(間に合わない)
 思った瞬間に、ピラーは一瞬で砕けた。
『アレルヤ』
 まさか、という思いとやはりという思いがアレルヤの頭の中で交錯する。
 GNアーチャーにマリーが乗っている。素早い動きで飛び込んできた機体は、即座に体勢を整えるとピラーの破砕活動を始める。
『これは戦いじゃないわ…』
 守るため、とマリーは言う。
 マリーは自らの意思でGNアーチャーに乗ったのだろう。迷いのない、力強ささえ感じる彼女の声を聞けばアレルヤにも分かる。
 それでも、
(それを言わせたのは僕だ)
 精度の高い的確な射撃。マリーは戦いを知っている。
 アレルヤは唇を噛みしめながらも、すぐにマリーと並び破砕活動を再開した。


たとえ落とすものが人でなくても、今マリーをコクピットに乗せているもの、その手に引き金を引かせているもの、それは僕の弱さだ。
守るためという言葉。それは詭弁だ。


静まり返った軌道エレベーターの周り、ピラーの破砕活動があまりに広域で行われた為、アレルヤは軌道エレベーターからかなり離れてしまっていた。
他のガンダムとの通信範囲からも外れてしまっているのだろう。早く合流しなくてはいけないと気が急く。
飛んでいる機体は少ない。地上を埋め尽くすモビルスーツとピラー片の山を苦い思いで見ながらも仲間の機体を探す。
視界の端、軌道エレベーターにほど近いところで不意に爆発が起こる。青いティエレンが一機、それに近づく赤いアロウズの機体。
そしてアレルヤはもう一つ別の方向から近づく機影に気が付く。
GNアーチャー。真っ直ぐに2機に向かっていく。
「マリー」
呼びかけに応える声はない。
(まさか)
もう一度マリーの持つ銃が人に向けられてはいけない。アレルヤは不安を感じ、後を追う。
そこへGNアーチャーへの攻撃。もう1機のアロウズの機体。
アレルヤの援護は間に合わない、しかしダブルオーライザーがその驚異的なスピードで2機に割って入った。
それでもGNアーチャーは止まらない。真っ直ぐにティエレンとアロウズの機体へ向かっていく。

アロウズの最新機に圧倒されるティエレン。一方的な攻撃、胸を貫かれ、そしてマリーと彼女を追うアレルヤが追いついた瞬間、目の前でティエレンは爆発した。
最後に気遣うように、機体を離したティエレン。同じ連邦軍同士のはずだった、アレルヤにはなぜそんなことが起きたのか理解できない。
そして、そこで誰かの命が失われたことをアレルヤは理解していたが、ただマリーが撃たなかったことに、ほんの一瞬安堵した。
『大佐』
マリーの震える声が紡いだ言葉に、アレルヤの背は一瞬で凍った。
マリーがその言葉の端に感情を乗せて言う対象をアレルヤは一人しか知らない。
「スミルノフ大佐」
続いたマリーの叫びは、アレルヤの胸に痛いほど響いた。


あなたからソーマ・ピーリスを奪った僕に、あなたはマリーを託してくれた。
そして今、僕はあなたに報いる機会を永遠に失ってしまった。
マリー、それからソーマ、どうか僕に君たちの悲しみを分けて。
僕は僕に出来ることを、これからもっとたくさん見つけるから。
君を守るから。