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 目の前を動く数字がピタリと照合し止まった。
 アロウズの軍事施設の中にある研究室の一つ。
 そこで何時間もホログラムのスクリーンを見続けた目を、ビリー・カタギリはこの日初めて眩しそうに細めた。
(最高のスピード…)
 スクリーンの光に照らされた横顔。寝不足と疲労に薄らと隈が浮かんでいる。
 そのまま閉じた瞼は重く熱く感じられ、思わず手を当てると、じんわりとした手のひらの温かみに肩の力が抜ける。
『最高のスピードと最強の剣を所望する』
 不意によぎった言葉。
 再会を喜ぶ間もなく告げられたそれを思い出し、ビリー・カタギリは苦笑する。
 眠気を誘う温度を離し難く感じながらも手を外す。
 目の前で止まった画面。粒子出力の安定値の算出。GNドライブのトランザムシステムの実証は目前だ。
    尊敬する師の導いた理論を実証する。技術者として、理論を導いたのが自分でないことをビリーは少し悔しく思うこともあったが、ここまで辿り着いた喜びはそれを遙かに凌駕するものだ。
 そしてもう一つ。
(君の望みを叶えたい)
 それは同時に自負でもある。
 グラハム・エーカーの要求はいつも遠慮がなかった。
 それでも、自分がそれを実現するのを信じてくれているからと知ってしまってからはもうどうしようもない。
 スピード、機動性、パワーどれをとっても引けを取らないものを作り出しても、それを易々と乗りこなし、こちらが予想した以上の成果を引き出す。
 ビリーにとってグラハムは、最高の友人であり、理想のパイロットだった。

 コーヒーを淹れなおし、ビリーは再びモニターを見つめる。
 最高のスピードを生み出す理想の数字。
 そしてそれは、パイロットへ最大の負担を与えるものだ。
 ガンダムの性能の高さ、それは初めて目にした5年前からビリーにとって脅威であり、羨望の対象でもあった。
 少ない機体で長時間に及ぶ活動を可能としていたガンダム。
 現行で使用されるGNドライブを超えるものはなく、エネルギー供給の時間的制限という問題点はすぐには解消できない。
 それでも、どれほど特殊な訓練を受けていようとパイロットは人間だ。
 性能の向上にはその制御と負荷の軽減が伴わなくてはならない。
 どんな技術をもってそれを制御しているのか、ビリーの思考は未だそこに追い付かない。
 グラハムはいつも自分への負担を顧みず、ひたすらに性能の向上を求める。ビリーもグラハムの性格を理解している。
 血を吐く姿すら自分は見ている。
 マグカップの中のコーヒーが不意に苦みを増したように感じた。
 視界の端でビリーの個人端末が存在を示す。
 時間を考えてか、メールでの連絡を寄こしたのはグラハムだ。
 その文面は彼にしては控えめな言葉で綴られていたが、内容は試作機の仕上がり具合についてだった。
(君が我慢弱いのは知ってるよ)
 文字で見る彼の言葉は以前のグラハムの調子に近い。
 不意にこみ上げる懐かしさがあった。

『明日様子を見に来てほしい』
 ビリーはすぐにメールで返事をした。
 グラハムが望むもの、望んだ以上のものを早く受け取ってほしい。
(君を止めないことが僕の誠意だ)