「ねえ佳主馬、見て見て」 風呂上がりの佳主馬を、聖美が呼び止める。 「これ、兄さんが送ってきたのよ」 聖美の指の示す先にはパソコンのモニター。そこには星空の画像が開いている。 「…おばあちゃんとこ?」 「そ。こっちお天気悪いでしょ。七夕だからって送ってくれたのよ」 兄さんこういうの好きだから。と聖美は笑う。 画像は聖美の兄、つまり佳主馬の叔父、太助からのメールに添付されてきたものだった。 確かにここ名古屋は曇っている。それに晴れていてもこんなにきれいな天の川が見れるようなことはない。 しかし長野では何度も見た光景だった。 「ふうん、まぁ綺麗だけど。それなら見たことない人にでも送ってあげればいいのに」 「まぁ、そうねぇ」 感動の少ない息子の言葉に聖美は曖昧に笑い、それからぱちりと瞬きをした。 「あ、じゃあ健二君に送ってあげたら喜ぶかしら」 言葉と同時に聖美の表情が明るくなった。 健二にメール。七夕に星空を送るなんて、それ自体『会いたい』と言っているようなものだ。 ふと思ったことに頬が熱くなり佳主馬は俯いた。 会いたい。会いたいよ。 「佳主馬?」 俯いた佳主馬に聖美は首を傾げる。 「何でもない」 佳主馬は逃げるように部屋に戻り、持っていたタオルで頭をガシガシと拭いた。 頬が熱くて、そんな自分が何だか嫌だった。 ベッドに突っ伏すと乾いた布はひんやりとしていて佳主馬は目を閉じた。 鈍い音が近くでする。佳主馬は目を開けた。時計を見てほんの数分自分が眠っていたことに気がつく。 音の元は携帯のバイブレーション。 ディスプレイに表示されている名を見て佳主馬の手は止まった。 健二からの電話。 「…はい」 一つ息を吸い込んで、通話ボタンを押す。 『こんばんは、突然ごめんね』 「…どうしたの健二さん」 『うん、ちょっと。佳主馬くん今パソコン開ける?』 「え、うん」 佳主馬はベッドをおり、パソコンをスリープの状態から起こす。 「ねぇ、何なの?」 『うん。あのね、メールを見て欲しいんだけど』 佳主馬はメールボックスを開いた。 すぐに入ってきた新着メール。その一番上、健二のアドレスから送られている1通のメール、件名『Fw:都会っ子へ』。 『あのね、上田の空を、太助さんが送ってくれたんだ』 健二の声はとても明るい声だった。添付の画像を佳主馬は開く。 聖美に送られたのと同じ星空だ。太助から送られてきたであろうメールをそのまま転送しただけのものだ。 『見たらね、僕去年の夏、この空を見たはずなんだけど全然思い出せなくて、もったいないなって思って。それから佳主馬くんにも見て欲しいなって思って』 こっちなんて今雨なんだよ、と健二は笑う。 「こっちは曇りだよ」 『うん。そうなんだよ、全然天気が違うよね』 「遠いもん」 『そうなんだ。だから、佳主馬くんと同じもが見たくて』 頬が熱くて堪らない。さっきよりももっとずっと熱い。 空はひと続きでも、見ている空模様は全く異なる。なのに自分たちは今同じ空を見てる。不思議で、切ないけれど嬉しい。 『佳主馬くんに、会いたいな』 1年に1度、ということもないけれど、遠い。会えない。会いたい。 「うん。僕も」 |